冬の灯火

 クリスマスとはキリストの聖誕祭でありキリスト教の一大祭事であるが、その由来を辿るとローマのミトラ教の冬至祭でありコンスタンティヌス帝がキリスト教と習合しようと同じ日に設定されたといわれている。

 夜の街はイルミネーションで照らされて、日が落ちてもなお、道行く人間は多い。店の前に差し掛かると中で流れているクリスマスソングが聞こえてくる。
「仏教徒が大半だろうにな」
 俊也はそういった。
 別に同意を求めたわけではないが、てっきり同意すると思った亜紀は意外にも、
「日本人は元々神仏習合していたぐらいごちゃ混ぜの信仰と宗教観なんだから、他宗教の祭事が混ざってもおかしくないんじゃないの」
 素っ気なくそういう。
「…………」
 そう考えると、宗教の垣根なく節操なしに祭事をするのは昔の日本人に戻っただけなのかもしれない。
 そもそも中世の頃からクリスマスは祝宴にかこつけて乱痴気騒ぎをしていると嘆かれていたらしく、いわば公認された馬鹿騒ぎの日だというのが伝統だといえる。西洋においてもそういう日なら、日本人はある意味正しくクリスマスを堪能しているといえる。
「祝う?」
 からかうように亜紀がそういった。多分、俊也の実家が神社なのでいっているわけではなく、俊也本人に信仰がないのをわかった上での物言いだ。
「柄じゃないな」
 祝祭にかこつけて騒いだり浮き足立つのは性に合わない。
「だろうね」
 くすくすと忍び笑いを漏らす亜紀。
 こうしたイベントは柄ではないといって、同じように高校生の頃は避けていた亜紀は、今は夜を彩る灯火に照らされて、寒空の下でも穏やかな表情を浮かべていた。
「行事にかこつけて何かをしたり一緒にいる理由なんて何でもいいんだよ。きっと」
 そうして笑う亜紀を見ていると、確かに一緒にいる理由なんてどうでもいいのかもなと思った。


あとがき

数年後なので羽間じゃないどこかの街の話です。

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