攫われ隠し神と影の睦み合い

拾った人外少女が過去にエグい陵辱調教を受けていたことが判明したがこちらも狂人だったので何の問題もなかった

 夜の帳の落ちた室内、
「…………っ」
 息を震わせ身悶えした赤衣の少女の晒された白い首筋に、黒衣の少年は顔を埋めて――
 すん、とひとつ鼻を鳴らした。

 ――夜伽の相手をしてくれないか。

 空目があやめに向かってそう告げたのは二人が出会ってからそう間もない頃であった。
 幼い頃に神隠しに遭い、異界に触れたせいで人間的な感情を消失した少年の死した情動を刺激したのは、かつて彼を攫ったものと同じ神隠しであるあやめだった。
 異界からの帰還者である空目は、思考と思索以外に生きる理由を失っていたが、あやめの存在が永く失われていた彼の情動を動かし、そして肉体をも刺激したらしい。つまり――性衝動をも。
 その推測を淡々と告げながら空目は、自分の身勝手な欲求の相手をしてくれないかと、あやめにいったのだった。
 その説明を聞いたあやめのほうが慌てふためき羞恥で顔を赤く染めるのとは反対に少年の態度は堂々としたものだった。
 正常な人間からすれば相当に狂ったやり取りだが、それを問題にするまともな人間はこの場にはいなかった。狂人に山人、普通ではない両者からすればとうに了承済みの出来事だったからだ。
 しかし空目はいう。嫌ならば無理強いはしない、とも。
「どうする?」
 少年の感情の見えない黒い瞳があやめを見つめる。
 この人は――空目は人に対して期待をしない。断っても傷つかないしそれに頓着はしないだろう。
「…………」
 僅かな躊躇いの後に――あやめは承諾した。

 神隠しとなったあやめを待ち受けていたのは永遠の孤独であり、僅かな人との交わりは一時の孤独を癒やしたが、それは関わった人間をあやめと同じものに変異させ異界へと消失させる悲嘆の連鎖にほかならなかった。
 だけどあやめは空目の手によってこの現世に攫われた。
 もう、人と関わっただけで人を攫うことはない。人の傍にいられる。
 これがどれだけ奇跡に等しいことなのだろうかと思う。
「…………」
 そして異界に帰ることのできない今のあやめにとって空目は唯一の拠り所であった。
 この少年が理解したうえであやめを求める狂人であるからこそ共にいられる存在だった。
 人に認識されて初めてこの世に干渉できる異存在にとって、人に存在を認識されることは本能的な自己の存在の充足と喜びをもたらすものだった。
 人と関われることは嬉しい。
 人と触れ合えることは嬉しい。
 あやめの人としての心と、異存在としての根源衝動の双方が喜びを感じていた。
 それ以上のことになればきっと、おかしくなってしまうだろう。

 あやめの臙脂色のケープの結び紐が解かれ、肩から落ちる。その動きで長い黒髪が肩口より滑り落ちた。
 ベッドの上で向き合う。空目が自身のシャツの襟元をくつろげた。その痩躯に相応しい細首だったが、筋張り喉仏の出たそれは男のものだった。
「何かして欲しい、反対にして欲しくないことがあればいってくれ」
「……はい」
 その言葉にあやめは頷く。
 空目の手があやめの髪に触れる。ぴくり、とあやめはその小さな身体を震わせた。
 長い髪に指を滑らせる。そして鼻先を近づけた。隠し神の異界に惹かれているこの少年はあやめの纏う異界の匂いに酔っている。
「嫌か?」
「…………」
 あやめは頭を振る。恥ずかしい気持ちはある。だが嫌ではなかった。
 くすぐったい。そんなまどろっこしさが自分がまるで普通の女の子として扱われているようで、嬉しかった。彼があやめに向ける情動も衝動もあやめが人ではない神隠しであることに起因するものだとわかっているのに。人に触れられる嬉しさを押さえられなかった。

「こうした経験はあるのか?」

 しかし――次に空目が発した問いはあやめを凍りつかせた。忌まわしき過去を問うものであった。

「……っ……」
 びく、と肩を震わせるあやめ。
「別にそれで俺がどう感じるわけではないが、何かあるなら先にいってくれ」
 空目の温度を感じられない感情の見えない目は、あやめが過去に男性経験があろうとなかろうと変わらないことを意味していた。
「…………」
「嫌なら無理に話さなくてもいいが」
「いえ……関わることなので」
 かそけき声をあやめは絞り出した。
「私の身体はまともじゃないんです。とうに人ではない身ですが……その、人の形としても異常なんです」
「…………」
 訝しがるような沈黙。
「…………見たほうが早いと思います。見苦しいものをお見せすることになりますが」
 声と息を震わせながら、あやめはスカートの裾を握り、それをたくし上げた。幕が上がるように長いスカートの布が上がる。
 童女同然に肉がついておらず、細く日に焼けていない白い脚の付け根に、少女の語る『異常』が見えた。下着は着けていなかった。だが異常はそれではなく、その身体にあった。
 無毛の下腹部に本来腹の中に収まるべき子宮肉がまろび出ていた。肉色をした芋虫のような佇まいのそれが体外に飛び出てだらりとぶら下がっていた。
 浮世離れした少女に似つかわしくない赤い肉の異様な生々しさは別種の異常性をもってその存在を主張していた。
 空目は慌てはしなかった。だがそんなあやめの身体をじっと観察するように目を細める。やがて口を開く。
「ずっとそういう状態だったのか?」
「はい……」
「出会う前からずっと?」
「……はい……」
「出会ってからもずっと?」
「………………はい………」
 消え入りそうに、身を縮めながら、あやめはその問いに返答する。
「…………」
 再び黙り込む空目。
 引かれてしまったに違いないとあやめは思う。
 普通の人間ならば引く。今まで……隠し神となったあやめが関わった男の人ですらこの状態には引いていた。もっともその男の人達は酒に酔った判断力の低下や異界に触れた狂気に当てられて、雌穴として使えるならばそれでいいとあやめを使い、受け入れていたが。
 こんな醜い身体を、この綺麗な少年の目の前に晒している。せっかく神隠しとしてではなく女としての機能を求めてくれたのにも関わらずこんな……と。申し訳なさと恥ずかしさで今すぐ目の前から消え入りたい気持ちでいた。

「お前が元は人間で人の身体の作りをしていたならありうることだ。問題ない」

 え……と惑いながら、あやめは見つめ返す。
「どうする?」
「私は……」
 きゅっと、唇を噛みしめる。
「私を、使って……ください」
「わかった。元々そのつもりだ」
 空目があやめの服に触れる。残った衣服のボタンを外されて、脱がされる。女としては熟しきれていない未発達さの残る細く厚みの薄い身体を少年の目の前に晒す。
「…………」
 ――恥ずかしい……
 羞恥で肌を赤く染めながら立ち去りたくなるほどの恥ずかしさに堪えながら、彼の視線を受けた。
 それでも、ひと時でも赤い服を脱がされたことに――生け贄の証を脱ぎ捨てられたことに僅かに安堵があった。
「……っ!」
 敏感な部位に触れられて、思わず肩と声を震わせる。
「痛むか?」
「痛くは……ありません」
 何故なら、疼いていたからだ。あやめが過去に受けた異常な陵辱の数々は、歪んだ肉の悦びをあやめに与えてしまう。分泌されたいやらしい粘液が女を知らない彼の指を汚している。浅ましい悦楽で人を汚すその様子が人と関わることで存在を汚し貶める己の有様と被るようで、涙が浮かびそうなほど恥ずかしかった。こんなものは異常だ。なのに感じてしまう己の浅ましさ。
「…………」
 物理的な状態の観察だろう。それでも自分の敏感な場所に触れられて見られてしまっているのが恥ずかしかった。
「中に押し戻したほうがいいのか? それともこの状態のまま?」
「どちらでもお好きなように……乱暴にして頂いても構いません。死にはしないので、壊して頂いても」
「…………」
 彼の指が体外に飛び出した肉に触れた。
「ひっ……あ……!!
 びくんと身体を震わせて、か細く悲鳴を上げる。その反応をよしと受け取ったのか、同じペースで撫で続ける。
「あ……っ……ああ……」
 じゅくじゅくと分泌液が塗り拡げられていく。撫でられる刺激に軟体動物のように粘液を吐きながら子宮肉は歓びに打ち震えた。
「……指を挿れるぞ」
「あっ……あぁっ……!?
 粘液に塗れた指が子宮頸を抉じ開け穴の中に入ってきた。そのままゆっくりと中を拡げるように鎮座する。
「っ……あっ……はっ、あ……!」
 久方ぶりに身体の奥深い場所で味わう人の感触にあやめは呻く。こうして与えられる性的刺激による充足感はひと時の孤独を紛らわしてくれていた。
「あっ、あぁっ……あっ、んっ……!」
 内部を探るようにして動かされる自分の中にある指。もどかしさすら感じる丁寧さで刺激される。
「……っ……!」
 ――もっと、欲しい。人の感触が。指では足りない。
「くだ……さい……」
 空目があやめを見下ろす。
「あなたを……ください……っ」
 珍しいあやめの求めに、空目は目を向けてくるが、
「ああ。今挿れる」
 そういって求めに応じて――指ではない彼の物が入ってきた。
「ひぐっ――あ、あぁ……っ!?
 入ってきた勢いで体内に子宮が押し戻されるが、行き止まりに突き当たり……口を開かせた子宮口を抉じ開けて中に肉棹の先が入ってくる。
「おっ……あ゛……っ……!」
 確かな人の感触と温もり。拡げられる己の内側。ぼこりと腹の肉が内側から押し上げられて外から見ても盛り上がっていた。
「あっ……ひっ……うっ……!!
 苦悶しながら喘ぐ。肉棹が引かれるとそれに食らいつく子宮肉がずるずると引きずり出された。再び突き入れられると腹の中に押し戻される。その繰り返し。
「おっ……! おごっ……! う、おぉっ、おぉ……っ……!」
 物のように女の大事な部分の肉が使われている。
 こんな交わりは自分も相手も客体化され歪んだ肉欲と被虐性愛を満たす以外の意味しかありはしなかった。――今までは。
「おっ……あ゛っ、あ……っ! あっ……あ゛……あ゛ぁ……!」
 少女に似つかわしくない獣のような声が出た。涙が流れるほど恥ずかしい。
 快楽で忘我状態になり、自分が穴という道具として使われる歪んだ肉の興奮に、漆黒の快楽に意識が塗りつぶされる。
「…………」
 すっと、髪を撫でられる。愛しいものを相手にするようなひどく優しい手付き。
 背に腕を回され、腕の中に抱きしめられた。温かい身体の触れ合い。
 涙が出るほどに欲した人の温もりに――快楽に眩んでいた自我に、罪の意識が噴き出した。
「お願いです……壊してください……っ」
 腕の中であやめは叫んだ。優しくされることに耐えられなかった。

 こんなにも浅ましく――こんなにも幸福で満たされた罪深き自分を罰して欲しかった。

「それはできない」
「……っ……」
 懲罰も求めてもそれは受け入れられない。
 抱き合ったまま、欲ゆえにとも情ゆえにともつかぬ交合が続いた。
「あっ……はっ……! あ、あぁ……!」
 彼の肩口にしがみつきながら、喘ぐ。ぎゅう、と中にある彼を締め付ける。あやめの視界が白んで――背筋が反らされる。
 放たれた彼の欲望が、あやめの小さき肚の中を膨れ上がらせたのがわかった。

         ✽

 誰でもよかった。傍にいてくれるなら。この孤独を分かち合ってくれるなら。
 空目もそうだろう。あやめでなくてもよかった。異界への憧憬を満たしてくれる神隠しでさえあれば何でもよかった。
 お互い誰でもよかった。それでも――出逢えたのはお互いだけだった。
「…………」
 彼自身が選んだこととはいえ堕落させたのは自分の存在だとわかっていた。彼のことを案じる彼の友人達には申し訳が立たなかった。本当は誰にも合わせる顔などなかった。
 それでも歪んだ繋がりとてあやめには繋がりだった。歪んだ形でしか他者と繋がれぬ悲しみが、それでも求められ、共にあろうといって貰えたことが、もたらされた充足感が、それが幸福であると感じてしまう己の中の真実に、不相応な幸せにどうしていいかわからなくなる。

「…………ごめんなさい…………」
 だからあやめは、謝罪するしかなかった。
「…………………………」
 空目は答えない。
「お前のせいじゃない」
「…………」
 それは幾度となく繰り返された両者の間でのやり取りだった。
 そうしてあやめの謝罪は受け入れられることはなく、罰を与えられることもなかった。

         ✽

「風呂に入ってくる」
「……はい」
 部屋を出ていく空目をあやめは見送る。あやめの身は食事も手入れも必要ないのだ。ついていく必要はなかった。
「…………」
 服を身に着けて、寝台に寝そべり、まどろむように目を閉じる。切り揃えられた長い髪が寝台の上で扇のように広がった。
 それでも――自分の行動を逐一伺い立てることなどしない空目があやめにひとこと言ってから行くのは珍しかった。……身体を重ねた後だから、彼なりに気を使ったのかもしれないと思うのは自惚れだろうか。
「…………」
 脱ぎ捨てられていた彼のシャツを畳もうとして、そっと抱き寄せた。

 遠きものだった筈の、人の、匂いがした。


あとがき

問題作を書いたという自覚はあります(苦笑)
空あやに関しては恋じゃないけど理屈の上では限りなく恋に近い何かだと思っているのでその辺りの理屈を捏ね回して濡れ場にできるようにしたのだけど、内容が内容なだけになかなかひどいことになってしまった。
空目が狂人であやめちゃんが人外だからって何やってもいいと思っているな!? でもあやめちゃん怪異だからハードプレイでもいけそうで……() 人外合法ロリ属性、有効活用していきたい。
しかし竿役が空目だと連戦ができないのが難だ。一回出したら死にかけてそうで。こう、産卵後の鮭みたいになってそうで(笑)

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